~日々の気になるメディアトピックを気ままにコメント分析~

Wednesday, March 9, 2011

映画ブラック・スワン、スリルor感動?

『ブラック・スワン』を見に行った。とても気に入った。見る前に批評はひとつしか読んでいなかった。ル・モンドのThomas Sotinelが書いた記事。ル・モンドの映画批評とは波長の合うほうで、今回の『ブラック・スワン』に対する評価も良かったため、落胆する心配はあまりせずに出掛けた。結果、期待以上に満足した。

ただ、面白いことに、記事に描かれた映画とは全く別のお話を見た気がした。

まず、Sotinel氏の批評記事の題名にはdanseuse schizophrène とあり、文中にはさらにdanseuse folle(狂気のダンサー)とあったので、統合失調症(schizophrénie)の精神病バレリーナのお話なのかと思っていた。何のことはない、ごくマトモな女性のお話だった。

Sotinel氏はまた、film d’horreur (ホラー映画)とも描写している。私は大の怖がりで、少しでもホラーもの、超常現象・幽霊モノを見ると、しばらくはトイレにも行けないし、背後に気配がしてシャンプーすらまともに出来なくなる。臆病すぎて、いわゆるホラー映画は絶対に見に行かない。Xファイルでさえ震え上がるタイプなのだ。

ブラック・スワンは、私にとって、明らかにホラー映画ではない。スリラーでもないかも。鑑賞後も気味の悪さや恐怖感は無く、お風呂で髪も洗えたし、ひとりでトイレにも行けた。

私が見たのは、窮屈な環境にありながらグレもせず「いい子ちゃん」で四半世紀を過ごした普通の女の子の話。その娘が、プリマ役を契機に、(内なる)母を「殺し」、自分をがんじがらめに縛る超自我(=白鳥)と壮絶に闘う。

彼女の内部に渦巻く怒りや葛藤やドロドロや恐怖の激しさを思えば、血、暴力、幻覚、妄想を交えた強烈な映像描写は決して過剰ではない。特殊効果も説得力がありちょうど良い。そして何よりも怯える彼女に芽生えてくる勇気が見て取れて嬉しい。 

最後には闘いに勝った自由な開放感が深々と伝わってきて、ラストシーンの主人公と同様、晴れ晴れと爽快な顔で映画館を出た。

Sotinel氏は「ブラック・スワンは純粋に刺激的な映画であって感動を喚起するものではないBlack Swan est un film de pures sensations qui relègue les émotions au second plan.」とまとめているが、私は、スリルよりも感情的に動かされた。

そして、最後の相違点。Sotinel氏は「映画館を出たとたん、歩道上で言い争いを引き起こすような類の映画」としているが、幸い、一緒に鑑賞したオットと公衆の面前で夫婦喧嘩にはならなかった。

私「いい映画だったね。主人公、頭おかしくなかったね。」
答「うん」

Sotinel氏と見に行ったのだったらケンカになっていたのかも知れない。

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役者:ナタリー・ポートマンは最高。「フレンチー」役のヴァンサン・カッセルがどうにも平べったかったのが残念。

Tuesday, March 8, 2011

スーパーアイドル「マリーヌ」急浮上

週末の間中、それはもう、すごい騒ぎであった。

金曜日の昼ごろからラジオ、テレビ、インターネットすべてのメディアにおいて「世論調査でマリーヌ・ルペンがサルコジ大統領と社会党のオブリ第1書記を抑えてトップに!!」の話題で持ちきりであった。

マリーヌ・ルペンMarine Le Pen は今年1月に父ジャンマリー・ルペンを継いでフランス極右政党であるFNフロン・ナショナル(国民戦線)の代表となったアラフォー女性。

6日付けのル・パリジャン紙のために行われたハリス・インタラクティブ社の調査(sondage Harris Interactive)の結果、23%の人が「今、大統領を選ぶとしたらマリーヌ!」と回答し一番人気となった(他の2候補はそれぞれ21%)。極右候補がトップに踊り出たことにより、フランス政界&メディア界は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなったのだ。  

ただ、この結果自体は大して驚きではない気がする。今年に入り、正式にパパの跡を継いでからというもの、あっちで「マリーヌ」、こっちで「マリーヌ」、彼女の名を聞かない日など一度もない。(もはやファーストネームのみで通用する)

テレビ・ラジオでは特集番組に引っ張りダコ。スター並みの扱いで注目が集まらないほうがおかしい。また、いかにも時代劇の悪役代官といった「父」に比べたら、「娘」の方は気さくなブロンドの「ママさん政治家」といった様子で親しみやすいイメージだ。日本のアイドル同様、美人でないところが却って親近感を生む。

すなわち、「洗浄された極右のマドンナ」が作り出された責任の一端はメディアにもあるのでは?

そして、今回の調査の結果、「マリーヌを支持しても、もはや異端扱いされないんだ!堂々とFNに投票してもいいんだ!タブーじゃないんだ!」と、国民の一部のモラル・コンプレックスが取れたに違いない。

この騒動を受け、候補者の選択肢が充分でないと非難されたハリス・インタラクティブは、6日、次期大統領選への出馬が噂され人気の高いDSKことドミニク・ストロスカーン氏(PS社会党)を選択肢に含めた上で再調査を行うと発表。

その結果は、、、、タタターン(太鼓)!
「マリーヌ」1位(24%)、「DSK」2位(23%)、「ニコラくん」3位(21%)。(本日付けル・パリジャン発表)

全然フォローになってない。でも、このような大騒ぎの中での「再調査」に果たして意味はあるのだろうか?

はっきり言って、もし「世論調査のハリス・インタラクティブです、アンケートにご協力くださ~い」と電話が来たら、私だったら「もちろん、私のアイドル『マリーヌ』に投票いたしますわ~!」と、からかい目的で回答したに違いない。

Sunday, March 6, 2011

ルノー、産業スパイ容疑の基盤ゆらぐ

「我々には確信があります。確信がなければ、このような事態には至っていませんよ」
1月23日夜、TF1テレビのニュース番組に登場したルノーのカルロス・ゴーン会長は、同社の幹部3人に対する産業スパイ容疑の「証拠」について問われ、自信満々にインタビュアーに答えていた。

それから一ヶ月余、仏国内中央情報局(DCRI)の調査が進むにつれ、電気自動車(EV)秘密漏えいに関する国際的産業スパイ事件の「証拠探し」は、根も葉もないぬれぎぬ事件の「責任者探し」へと変換しつつある。

3月4日、ルノーのナンバーツー、パトリック・ペラタCOOは、ル・フィガロのインタビューに対し、ルノーが何らかの情報操作manipulationに巻き込まれている可能性を示唆し「スパイ事件が虚構であった場合には、責任を取り辞任も考えている」とまで述べた。

いったい何が起きたのか?

匿名の内部告発の手紙が発生したのが昨年夏。その後数ヶ月間、ルノーは社内のセキュリティー内規に則り、民間の調査会社を使って「独自の」内部調査を行ってきた。その結果、1月初旬、ルノー技術研究所(Technocentre)のEV開発担当の幹部3人を、外国(暗に中国)に企業プログラムを漏らし報酬を得たとして停職処分、のちに解雇した。

幹部の停職処分がメディアにすっぱ抜かれて初めて、ルノーは公けに訴えを起こし、スパイ疑惑の調査はフランスの情報機関であるDCRIに委託された。

その間、疑いを掛けられた幹部3人はそれぞれ弁護士を通し終始無罪を主張。一番若い幹部は「説明なしに突然停職を言い渡された。新聞を見てはじめてどのような疑いを掛けられているのかを知った」と証言している(ル・モンド3月5日付)。

そして、3月に入り、スイスとリヒテンシュタインにあるとされた幹部3人の賄賂受け取り用「隠し口座」は、少なくともスイスには存在しないことがDCRIの捜査により分かった。

1カ月前にはまだ自信満々であったルノー経営陣の威勢の良さは急速に萎えつつある。「疑いが晴れた場合には、幹部3人に職場復帰を申し出るつもりだ(3月4日ル・フィガロ)」と、ペラタCOOは提言。容疑を掛けられた元社員たちが、名誉を回復した場合、その提案を引き受けるかどうかは疑わしい。

何らかの復習目的の偽装工作にしろ、詐欺行為にしろ、幹部3人がシロであると確認されれば、ずさんな内部調査を遂行したルノー首脳陣の首が次々に飛ぶことは確かであろう。

今後の焦点は、日産との「かすがい」であるゴーン会長にまで火の粉が飛ぶか否かということ。また、この騒ぎの創始者である「匿名さん」が誰なのか、いつか分かる日がくるのかどうか。。。

A suivre…

Thursday, March 3, 2011

マドモアゼル・ディオールもフューラーがお好き

メゾン・ディオールの(元)デザイナー、ジョン・ガリアーノ氏のユダヤ人差別発言事件は思わぬ発掘をもたらした。

クリスチャン・ディオールの姪であるフランソワーズ・ディオール嬢(今は故人)が結婚式の直前、フィアンセのイギリス男性の傍らでフランスメディアのインタビューに答えているビデオである。

時は1963年、デザイナーのディオール氏はすでに他界。モノクロの画面に現れたフランソワーズは、胸にキラキラとかぎ十字のペンダント。イギリスのナチ系党員との結婚を控え、目を輝かせながらインタビュアーの質問に答える。

馴れ初めは?
「新聞に彼についての記事があり、わたくしも国家社会主義者であったので手紙を出しましたの。返事がきましたので、ロンドンに渡りましたの。」

プロポーズは?
「20日前にイギリスからフランスへ向かう飛行機の中で。国家社会主義者世界連合にとってはとても象徴的な出来事でしたわ。」

結婚後は専業主婦?それとも職業婦人?
「もちろん仕事、主人の政治活動を手伝いますわ!国際面を担当してフランスでエリートを育てますの。主人が投獄されたらわたくしもついていく覚悟ですわ。」

子どもの数は?
「出来るだけたくさん!子育ての方針は種の純血を守ること、アーリア人以外とは結婚しないこと、国家社会主義のために戦う、つまり種を守ること。」

理想のヒーローは?
「フューラー、アドルフ・ヒトラーですわ!」

いやはや、Ca mérite d’être clair !(なんとも明瞭な!)
これを見た後では、ガリアーノ氏の呑んだくれ暴言なんて河童の屁。

もちろん、姪御さんの意見なので、ブランド創始者のディオール氏に責任はない。4年前、大統領キャンペーン中に仏社会党候補者のセゴレーヌ・ロワイヤル氏の実弟が、工作員としてレインボー・ウォーリア号事件に絡んだ疑惑が噴出した際、ロワイヤル氏が「家族の振る舞いに関して責任はありません」のような発言をした記憶があるが、その通りである。

似たような話では、かのシャルル・ド・ゴール大統領の孫息子のシャルル・ド・ゴール氏(同名)がフランス極右のFN(Front National 国民戦線)代表として市町村選挙の候補者になったときにも(1999)、他の家族のメンバーは口を揃えて糾弾。(当時のThe New York Times の記事

とはいえ、ガリアーノ氏の解雇騒ぎを背景に、状況が状況だけにやはり面白い。ガリアーノ事件をきっかけに皮肉にも掘り起こされたこの埋没ビデオ。インターネット時代の賜物と言えよう。

おまけ:結婚式当日、式場前の喧騒(RUE89に掲載のビデオ(英語))

Wednesday, March 2, 2011

ロンドン五輪、アフマディネジャド氏お怒りです

さて、中東ではリビアのカダフィー政権崩壊寸前、イランでも昨日は前日に拘束された改革派リーダーのムサビ、カルビ両氏の釈放を求めて首都テヘランを含めた数都市で大規模なデモ活動が展開、治安部隊の弾圧も一層強まり緊張が続く。

そんな雰囲気の只中で、イランのアフマディネジャド大統領は、来年開催予定のロンドン五輪をボイコットする!などと鼻息が荒い。その原因は、五輪のロゴマーク。2012の数字をデザイン化したものだが、それが大統領によればZIONとも読めるそうで・・・。

ZION(シオン)はイスラエルの地エルサレムを指す言葉であり、イスラエル国家の存在を認めていないイランからみると、このロゴは世界のムスリムに対する人種差別であって、イランを含めたイスラム教の国々は五輪をボイコットする可能性があると主張。(2月28日)

一方、ロンドン側は、2007年に発表されたこのロゴマークに対する今さらの抗議に「?????」な様子。オリンピック主催者にとっては、このロゴはもちろん単なる数字でしかない。

まー、中東情勢の混迷で体勢が不利になる中、西洋とイスラムの一層の対立を狙ったアフマディネジャド氏の挑発行為であることは、誰もが感じてはいるのだが。

ひとつだけ言えることは、このロゴ、成功作とは言えないという点だろうか。正直、イマイチである。

その醜さに耐えかねて「ユダヤ陰謀説」を持ち出してきたとすれば、アフマディネジャド大統領の美的感覚は、ティオールのデザイナー ジョン・ガリアーノ氏のスピリット*に通ずるものがあるのかも、などと、妙な連想さえ掻き立てられるニュースであった。
(*おとといのブログ記事「ジョン・ガリアーノと酒癖の悪さ」参照)

Tuesday, March 1, 2011

アクテュはフランス生活の友


前々から、日々話題になるトッピックで、自分の関心がいくものについてメモしてったら面白そう、とは思っていました。

初めは、紙(画面)相手に文章打ち込んでも反応もないしねー、と無意味に感じましたが、そのうち、別に一方的なつぶやきでもいいや、たまたま見た人は読むだろうし、誰かの役に立つとも限らない、と思えてきました。

というのも、フランス生活者ならお分かりだと思いますが、フランス人は老いも若きも、ムッシュもマダムもマドモアゼルも、政治の話から3面記事にいたるまで、とにかくべらべらと話題にするのが好き。世間話をする時にも、ある程度のニュース l'actu( l’actualitéの略)の知識があると、人とのコミュニケーションがぐんと面白くなります。

ヒントになったのが、昨年2010年サッカーワールドカップ時の我が家のある出来事。

TVのニュースチャンネルから「ではお次は ‘La coupe du monde pour les nuls’(素人のためのワールドカップ講座)のコーナー!」とおどけた調子の声が聞こえてきて「まったくサッカーに疎いあなたでもこれさえ覚えれば会話に加われる!」などと言っています。

「さて、今日のフレーズは、
『まったく、なぜドメネク監督はシセを出さないんだ?
ギリシャのスーパーリーグの得点王だというのに!』
です。」

その夜、帰宅したオットにこのフレーズを伝えました。

翌日、仕事から戻ったオットは、「いや~、すごいよすごい。昨日のフレーズ本当に使えたよ」と可笑しそうに話し始めます。

全くサッカー音痴のオット、昼休みに社食でサーカーの話題になった時、すかさず
『まったく、なぜドメネク監督はシセを出さないんだ?
ギリシャのスーパーリーグの得点王だというのに!』
と、もっともらしく発してみたそう。

すると、みんな口々に「そうだそうだ、まったくだよな~、何でシセを使わないんだ!」などと熱くなって会話は続いたそうです。

私:「で、そんな知ったようなこと言って、他にも色々と聞かれた?」
オット:「全然。このフレーズをエサにその後も勝手に盛り上がってたよ」
ちなみに、オットはシセが誰であるのか、まったく分かっていません。

そう、そもそもフランス人なるものは、往々にして人の話など聞かずに自分がおしゃべりしたいもの。でも、話題についていけないからといって、ずっと黙っているのも面白くないですよね。

そこで、便利な「合いの手」があると、フランス人とのソワレも楽しくなってくるかも。ハァ~、ソレソレ!よいやさぁ、よいやさ!と、フランスの「巷の話題」に興味がない人にとっても、このブログの内容がコミュニケーションのお囃子代わりにでもなれば嬉しいな、と思います。


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