Friday, December 21, 2012
第3世代ピルで身体障害、訴訟へ
先週のことであるが、気になった裁判のニュースがあった。
若い女性が、避妊用ピルを服用したため重度の障害を背負い、ピルを製造するバイエル薬品と 、販売を阻止しなかったとして国のANSM(AFSSAPSフランス保健製品衛生安全庁の後身)を相手取り、ボビニーの大審裁判所に訴えを起こした、とル・モンドのサイト(12月14日付記事)が伝えた。
原告はマリオン・ララさん、25歳。2006年、マリオンはMelianeというバイエル薬品の第3世代ピル服用4ヵ月後に脳梗塞を起こし、体の65%が麻痺する重度身体障害者となった。この脳血栓がピルに因るものであることは、2012年6月、ボルドーの地方医療事故損害調停委員会(CRCI)により確認されている。
各製薬会社は、第3第4世代ピルで血栓症リスクが高くなる事実は認識しているが、説明書に小さく記述することにより責任を免れているのが現状。
マリオンの場合、ピルと脳梗塞の関係がすぐに明らかになったわけではない。多くのピル被害者がそうであるように、病状とピルの因果関係にはすぐに気付かない。
2010年、ボーイフレンドが出来たマリオンは、再びピルを服用しようと新しい婦人科医を訪ねる。血液検査が行われ、そこで彼女は染色体に第II因子ライデン変異を持つことを知る。この因子は、血液の凝固反応を促進する。経口避妊薬の摂取は禁忌だ。
ピルと脳梗塞が結びついてから、マリオンは「一年間ほとんど眠れなかった。女性の8%がこの染色体異常を持っていると知ってから、今までにも死んだ女性がいるだろうし、これからも死ぬ女性がいるのだと悟った」という。それまで、マリオンはピルによる血栓症のリスクなど聞いたこともなかったし、家族は皆健康で、自分が染色体異常の持ち主であるなど夢にも思っていなかった。
ル・モンド紙は、マリオンのほかにも、ピルが原因で若くして亡くなったテオドラとアデールの家族の証言、肺塞栓を起こしながらも間一髪で助かったカロリーヌの証言を載せている。
ピルで障害者に?記事を読み始め、まずはこの意外性に打たれる。
フランスでは避妊用ピルはそれはそれは広く普及していて、一般的には「害のない」錠剤との認識があるからだ。害がないどころか、女性の身を守る、社会的に有益な良薬としての位置づけで、女性はティーンエイジャーの頃から当たり前のように服用している。
記憶が正しければ、思春期を描いた80年の映画「ラ・ブーム」で、ボーイフレンドの出来た13~14の娘に母親がピルを与えるような場面があったと思うが、要は、これがこの国のメンタリティー。
よって、女性の味方のピルが、健康な人間の命を奪うことがあるなんて、すぐにはピンとこないのだ。
でも考えてみれば、ホルモンの自然なリズムを騙くらかして排卵を操るために、得体の知れない添加物とともに四六時中、365日、何年も続けて飲み込み続けるのである。本当に体に何の影響もないのか、素朴な素人の疑問だ。
言っておくが、私はピル反対の立場ではない。女性が望まぬ妊娠を避けるための一手段として、研究開発が重ねられてきた経緯に関しては敬意を表している。1999年、日本で避妊目的の低容量ピルが解禁したときには(すでに日本にはいなかったが)「ようやく!」と心から喜んだものだ。
だけど、この国では、釈然としない何かがある。このモヤモヤが何処から来るのか、突きつめてみようと思う。
まずは、「ちゃんとした」女性は飲んでて当たり前、という風潮。
日本人女性は避妊目的でピルを服用してないのが「普通」だ。今の若い娘は知らないが、私の年代ではそう。それを知ると「あ~ら、先進国なのに女性はピルも飲んでないの?」と蔑んだような風潮が鼻につく。「あんたの国でだって、薬による避妊なんて、そう遠くない時代には考えられないことだっただろうがっ!」と思いっきりツッコミたくなる(実際言い返すけど)。でも、ま、それはピルに限らず、一事が万事そういう国だから置いとくとして・・・
私の気になるのは。
日本の女性で、フランス人男性とお付き合いすることになって、ピルを飲むよう言われた人も多いと思う。気に食わないのは、一般男性が女性にピルの服用を当然のように要求すること。
「避妊は二人の問題でしょ!今までピルに親しんでこなかった女性に対して『ピル飲め』って、よくも簡単に言ってくれるわねー。で、あんたは何を協力するの?ただ指図するだけ?ピルについて何の知識もないくせに」と、実際に言われた立場になったことがないので、感情移入でしかないけれど、こう大声で答えたくなる。
要は、男性の「ピルも飲んでないのかよ(めんどくせーなー、ちっ!)」という思考が透けて見えて、「ピル飲んでって言われた」って話を聞くたびに不愉快になるのだ。
つまり、一方的に女性だけが当然のように「負担」を強いられている現状。実際には仏女性の大半も「負担」だとは感じていないようなのだけど、それだけに、「負担」や「不安」に思う女性もいる、という想像力が働かなくなっている現状。これが一番アタマにくる。
と、話は逸れてしまったが、、、
そんなフランスでピルの弊害を訴えて訴訟に踏み切ったマリオンの勇気を讃えるとともに、他の薬害訴訟同様、困難が予想される裁判に向けて心から応援したいと思う。
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