十日ほど前から胃とお腹がしくしくと痛い。私にしてはめずらしい。
乙女のころから慢性的に胃痛に悩まされ、コーヒーも飲めず、バッグにはタケダ漢方胃腸薬を常備していた私だけれど、十ウン年前に日本を離れてパリに移り住むと同時にパタリと胃痛がなくなった。コーヒーも飲めるようになった。
そこで思い当たるのがアラブ諸国や中東で起きている民衆蜂起や反体制運動。なんとなく、これのような気がする。年末より新聞、ラジオ、TVニュースチャンネルでチュニジア情勢を革命に至るまで追ってから、ムバラク大統領退散に至るエジプト情勢、そしてここ数日の、リビアやイランなどの超強健独裁体制をも揺るがしている民衆の底力に、正直釘付けだ。
そして、疲れる。この地域の人たちの生活と直接かかわりはないけれど、すごく消耗する。マグレブや中東地域の沸騰によって引き起こされている、地殻変動にも似たパラダイムの変換に立ち会っている感覚。日本人としてヨーロッパにいても、この動きに否応なく巻き込まれているため、めまいに似た感覚を覚える。
中東事情に絡むヨーロッパやアメリカの思惑と対処、外交上の争点となりそうなポイントを、わかる範囲で考えてみると、その緊迫感に圧倒されて頭まで痛い。
こうオットに話すと「あー、わかるわかる。実はぼくも同じだよ。意外と疲れるもんだね」と答えた。
二日前からオットをパリに残し義実家に来ている。義母に、胃が痛いこと、原因として思い当たることを説明する。パラダイムが、地殻変動が、目に見えない気運の流れが、、、と抽象的な事柄を伝えようとする。義母は一生懸命耳を傾けてくれるが、途中で「ごめん、Je ne te suis plus… (話に)ついてけてない…」と申し訳なさそうに言った。
そこで、終いには私も「えっとね、Xファイルみたいなものなの」とつぶやいたが相手の目はテン。今宵は、義理娘がいつもよりもさらに宇宙人に見えたことだろう。