前回までのエピソード:
第3世代ピルで身体障害、訴訟へ(2012年12月21日ブログ記事)
第3世代ピル、3月より払戻しに終止符(2013年1月4日ブログ記事)
先月半ばに提起されたピル訴訟は、かなりのインパクトがあったようだ。
年末年始休暇の真っ最中、それも1月1日に、フランス保健製品衛生安全庁(ANSM)が第3・第4世代ピルの処方を一部専門家のみに限定する方針であると発表。
翌2日には、厚生大臣のトゥーレーヌ氏が、第3世代ピルの保健払い戻し中止の時期を早めると宣言。
このように、政府関係者が第3・第4世代ピルを市場から撤回するような意気込み示したことに対し、医師などから非難の声が次々に上がっている。
患者にピルを処方する権限を取り上げられそうになった一般科医(généraliste)や、家族計画団体(planning familial)の責任者などが次々と、女性のピル離れを懸念する声をあげた。
また、専門医である産婦人科医たちも、今回のANSMと政府の対応を非難する。
ストラスブール大学病院のイスラエル・ニザンIsraël Nisand 教授は、長年避妊用ピルの無料配布制度の普及に尽力してきた産婦人科の権威であるが、今回の政府の対応に手厳しい。
教授は4日、ラジオで「訴訟を契機に政府がパニック状態であることに驚愕している。このようなパニックは経口避妊薬に対する警戒心を生み出す。実際に他の国で過去に起きたことで、結果として人工妊娠中絶が‘大繁盛’してしまった」と発言。また、「数百万人の女性に適している避妊方法の払戻しを中止する決断をした政府」を激しく責めた。
事態の沈静化を目指してか、ANSM長官のドミニク・マラニンキ氏は5日、ル・モンド紙のインタビューで「処方を専門医に限定することは法的には簡単だが、好ましくない。(中略)産婦人科医の数も充分ではないし、今は検討していない」と、数日前の自身の発言を覆している。
また、第3・第4世代ピルの販売を中止する意図があるか、との質問に対し「現時点では全く考えていない」「急に中止すれば、深刻な混乱を招きかねない。その結果、1995年イギリスで起きたように*、望まない妊娠、人口妊娠中絶の急増につながる恐れがある」と、その可能性を否定した。
血栓塞栓症の発症率は、マラニンキ長官によれば、ピルを服用していない女性500万人に対して年間250~500件、第2世代ピルを常用する女性250万人に対して年間約500件、第3・第4世代ピル常用の女性250万人に対して年間約1000件の割合であるという。
* 1995年にイギリスで起きた"pill scare"(ピルの脅威)現象。開発されたての第3世代ピルへの不信からピル服用率が下がり人工妊娠中絶が急増した。フランスでも"panique à la pilule"と呼ばれ、中絶の増加傾向が見られた。
このように、提訴により製薬会社とともに槍玉に挙げられた政府当局がビビッて、正月早々性急な発表を重ね、もともと「経口避妊薬 命!」の傾向にあるフランス医療界、団体等がこぞって反撃した、という形だ。
避妊率の低下はもちろん阻止するべきである。私の尊敬するニザン教授の言うことは最もである。それは大前提として、この際、他の効果的な避妊方法についてもっと話し合われたらいいなぁ、と個人的には思う。
ピルの副作用も、望まない妊娠・中絶よりは「まし」ということは充分理解できるけど、毎日服用する煩わしさに加え、医薬品として不安が付きまとう、という要素も無視できないと思う。
じゃ、何が?と言われても確かに限られてくるが、子宮内に装着するIUD(仏語ではDIU、俗にstérilet と呼ばれる)などは、実際には未経産婦(nullipare)にも問題ないという専門家も多く、もう少し普及する余地があるのでは、などと感じる今日この頃である。
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