~日々の気になるメディアトピックを気ままにコメント分析~

Friday, January 25, 2013

魔女フロランス・カセと謎のエオラス弁護士


24日夜テレビ番組に出
演したフロランス・カセ
23日夜、メキシコで60年の禁固刑に服していたフランス人女性フロランス・カセ(カッセ?)Florence Cassez さんが、7年間の刑務所暮らしの末、釈放され、24日フランスに戻ってきた。

自動車販売員だと思って一緒に暮らしていた当時のメキシコ人の恋人が、実は誘拐を生業とするギャングのボスで、2005年、彼女は、誘拐の共犯者として、恋人と一緒にメキシコで逮捕された。

彼女は初めから無罪を主張。ここ7年の間に何度も釈放の審理などが開かれ、その度にフランス中が固唾を飲んで見守ってきたが、メキシコの最高裁は毎回、釈放の申し立てを棄却してきた。

フロランスの潔白を信じるフランスの政界・芸能界の人物は多く、フランスでは強力な「支持する会」が出来上がっており、2011年には、当時のサルコジ大統領がフランスの「メキシコ年」の祭典をすべてキャンセルして、事態は外交問題にまで発展していた。

無罪であるならば、なぜこんなに拘禁が長引いたのか。なぜ、こんなにメディアに騒がれる事件となったのか。

私見ではあるが、私は、フロランスのプロフィールや容姿が大いに影響していると感じる。

彼女は長身で色白の美人。髪はまぶしいほどの赤毛。そして勝気なフランス女性。これだけ揃えば、黙って道を歩いているだけでも注目される。その上、犯罪という匂いが漂えば「魔性」の要素が加わり、世論は食いつく。

現代の「魔女狩り」。メキシコでは誘拐事件の被害者は後を絶たない。警察は無能のレッテルを貼られないためにも「犯人」が必要だ。そして見つけた。マフィア検挙よりも手っ取り早いカモを。

フロランスの逮捕の様子を「ライブ中継」と偽って、ヤラセの場面* をメキシコのTV局に報道させた。誘拐被害者の家族たちの怒りの矛先は一気にこの「おフランスの赤毛の魔女」に向かった。

一度犯人像が具体化してしまうと、誤審であろうが人違いであろうが「離してなるものかっ」と必死になるのが被害者側の心理。肉親を失った悲しみが深いだけにわからなくはない。一方、警察関係者は、でっち上げが証明されればそれこそヤバイ。この事件では、各関係者たちの利害が絡み合って、事態を紐解くのに時間が掛かってしまった。。。とまぁ、こんなところかな。

経緯説明が長くなってしまったが、本題の釈放劇。

23日夜、子どもたちをバタバタと寝かしつけ、フロランスの釈放の審理をメキシコからの生中継で追うべくテレビの前へ。

ちょうど、5人中4人目の判事が弁論中。スペイン語から仏語への同時通訳が入っているが意味不明。途中で入るニュースキャスターの解説もあやふや。どうやら彼らも解釈が追いつかないらしい。

仕方なくネットへ。主要メディアのネット・ライブ中継。釈放への得票が2対2となったところで、テレビでは5人目の判事が弁論を始める。この判事はずっとフロランス支持だったというし、この判事は釈放に「賛成」なはずだからもうこれで3対2で釈放確定じゃないの?と思っていたが、そう単純なことではないらしい。ワカラン。

そして気付いた。レクスプレス誌(lexpress.fr)のライブ中継がメートル・エオラス(Maître* Eolas)のツイートをそのまま載せていることに。そうだ、その手があった。

すぐにエオラス弁護士のツイッターに直行。そして大先生のおかげで分かりました。このまま行けば単純に釈放とはならず控訴審のやり直しとなること。それを避け、フロランスを即時釈放に持っていくために、5人目の弁護士が当初の案を修正する方向で熱弁していて、その修正案をもとにもう一度5人の意見を聞くという提案を土壇場でしていること。そして、結局、大先生いわく「大逆転劇」でフロランスが完全に自由の身となったこと。

ツイート・フォロワーが「でも、ルモンドやリベラシオン紙では控訴審を待つ間の仮釈放だって言ってるよ」と質問すれば「それは間違い。ジャーナリスト達はまだ元の案に基づいて判決を解釈している。控訴審はないよ」と答え「でも、訴訟に不手際があっただけで無罪が証明されたわけではないんでしょ?」との質問に対しては「事件ファイルの内容があまりにも滅茶苦茶なので裁判自体が初めから成り立たないという判決。よって証明されるべきは彼女の有罪であって無罪ではない」と直ちに答える。
(注. 会話は覚えている内容なので原文どおりではない)

「先生、どうしてそんなに詳しいの?」には「それはね、生で審理を追ってるからさ!」と、現場にいるんだかみんなと同じようにTVで見てるのかわからない謎の発言。ちなみに、奥さんはスペイン人だということだが、本人も完全にスペイン語を理解している様子が会話から窺える。

おそるべし、メートル・エオラス。彼については一度ブログでも紹介しようと思っていたのだが、簡単に言うと、匿名の弁護士でフランスのツイッター王。一般のファンはもちろん、政治家やジャーナリストで彼をフォローしていない者はない。フォロワー10万人近く。私もファンの一人。

仏ウィキペディアにも謎のツイッターとしてページが存在する。エオラスは仮名。ツイッターのプロフィール・アイコンは「トトロ・バット」(こうもり型トトロ)。彼の辛辣な世情の分析、コメント、反論者への皮肉をこめた切り替えし、ユーモアとウィットに富んだフォロワーへの返信は失笑噴飯もの。

それにしても、いくら人気者とはいえ、正体不明とされるツイッター人物のコメントをそのままライブ中継するとは、、。仏メディアよ、大丈夫か。もうちと、しっかりしてくれぃ。

* ヤラセは警察、番組関係者が白状している
* Maître は弁護士の名の前につく敬称で一般人の Monsieur や医師の Docteur と同じ用法。

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フロランス・カセ釈放帰国と仏メディア(2013年1月26日)


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