メゾン・ディオールの(元)デザイナー、ジョン・ガリアーノ氏のユダヤ人差別発言事件は思わぬ発掘をもたらした。
クリスチャン・ディオールの姪であるフランソワーズ・ディオール嬢(今は故人)が結婚式の直前、フィアンセのイギリス男性の傍らでフランスメディアのインタビューに答えているビデオである。
時は1963年、デザイナーのディオール氏はすでに他界。モノクロの画面に現れたフランソワーズは、胸にキラキラとかぎ十字のペンダント。イギリスのナチ系党員との結婚を控え、目を輝かせながらインタビュアーの質問に答える。
馴れ初めは?
「新聞に彼についての記事があり、わたくしも国家社会主義者であったので手紙を出しましたの。返事がきましたので、ロンドンに渡りましたの。」
プロポーズは?
「20日前にイギリスからフランスへ向かう飛行機の中で。国家社会主義者世界連合にとってはとても象徴的な出来事でしたわ。」
結婚後は専業主婦?それとも職業婦人?
「もちろん仕事、主人の政治活動を手伝いますわ!国際面を担当してフランスでエリートを育てますの。主人が投獄されたらわたくしもついていく覚悟ですわ。」
子どもの数は?
「出来るだけたくさん!子育ての方針は種の純血を守ること、アーリア人以外とは結婚しないこと、国家社会主義のために戦う、つまり種を守ること。」
理想のヒーローは?
「フューラー、アドルフ・ヒトラーですわ!」
いやはや、Ca mérite d’être clair !(なんとも明瞭な!)
これを見た後では、ガリアーノ氏の呑んだくれ暴言なんて河童の屁。
もちろん、姪御さんの意見なので、ブランド創始者のディオール氏に責任はない。4年前、大統領キャンペーン中に仏社会党候補者のセゴレーヌ・ロワイヤル氏の実弟が、工作員としてレインボー・ウォーリア号事件に絡んだ疑惑が噴出した際、ロワイヤル氏が「家族の振る舞いに関して責任はありません」のような発言をした記憶があるが、その通りである。
似たような話では、かのシャルル・ド・ゴール大統領の孫息子のシャルル・ド・ゴール氏(同名)がフランス極右のFN(Front National 国民戦線)代表として市町村選挙の候補者になったときにも(1999)、他の家族のメンバーは口を揃えて糾弾。(当時のThe New York Times の記事)
とはいえ、ガリアーノ氏の解雇騒ぎを背景に、状況が状況だけにやはり面白い。ガリアーノ事件をきっかけに皮肉にも掘り起こされたこの埋没ビデオ。インターネット時代の賜物と言えよう。
おまけ:結婚式当日、式場前の喧騒(RUE89に掲載のビデオ(英語))