趣のある上階のホールで楽しく食事を取っていると、トコトコ、トコトコ、小さな足音が行ったりきたり。よくみると、ホール係のお姉さんの後について、7歳くらいの女の子がお皿をさげたり、デザートのみならずコーヒーまでをもこぼさないように慎重に慎重に運んでいる。
使命がひとつ終わると「次は、次は?」とお姉さんの指示を仰ぎ、「じゃ、これね」と任されると誇らしげに任務に就く。
25日は過ぎたとはいえ、大晦日まで開催中のクリスマスマーケット目当ての観光客は引きも切らない。ディナーに行った人気の老舗も予約客で満杯。スタッフは総出なのだろう、どの顔もキリッと締まり、息つく暇もない様子が伝わってくる。
そんな中での小さな給仕さん。預け先のなかったスタッフの子か、お店のオーナーの娘さんだろう、とオットも私も連れの者も思った。
ここで印象的なのはホール係のお姉さん。自分の仕事はきびきびと、しかも笑顔で確実にこなしながら、女の子の出来そうな作業を見つけては与える。少女は厨房にも着いていく。他のスタッフも上手によけながら気にも留めていない様子。
同年代の子を持つ客としては、お姉さんに脱帽。
女の子がどんなにかわいくても「この○○忙しい時にお荷物抱えちゃって・・・」と同情の気持ちでいっぱいになる。
そのうち、手一杯のお姉さんにデザートカードを渡され、少女は私たちのテーブルに注文をとりにきた。一人ひとりに「Qu'est-ce que tu veux? 何が欲しいの?」とたずねる声に楽しく答えながらも「覚えきれるだろうか」と不安がよぎるが「デザートメニューは暗記しているのだろう」と思い込むことにする。
お姉さんは後から確認しには来ない。女の子から報告を受け、遠くから「デザートは3つね?」と私たちに数だけ確認。
そう、実は、はじめから何よりも印象的なのは、ホール係のお姉さんの少女に対する信頼の与え方だ。私だったら、お客に出すコーヒーなど「こぼしたら大変」と絶対に任せられないだろう。注文だって、聞き間違えたり覚えきれないのでは、と不安になるだろう。
それが、おそらくある程度の失敗は想定のもと、はじめから「出来るだろう、出来るよね」と7歳児に信用を置いている。それが自然に伝わるから、少女も任された内容をとても誇らしく真剣にこなす。そして、彼女の達成感がこちらにまで伝わってくるのだ。一種の感動さえ覚える。
そして、それは起こるべくして起こった。
両手両腕に食器を目一杯重ねて歩き出そうとしたお姉さん。そこに「私にもやることない?」と少女が割り込んだため急停止。パリーン!グラスがひとつ少女の足元で割れた。
すると、奥のテーブルから女性が一人駆けてきて「大丈夫?マルゴ、もう終わりにしなさい、お姉さんも大変よ、あなたが割ったの?」。「ううん、私じゃない、私じゃないのママ、お姉さんなの。私じゃないの。」
そう、少女は食事に来ていたお客さんの子どもだった。大人より先に食べ終わって退屈していたのだろう。
コップが割れても、お姉さんはまず少女に怪我がないか確認し、責めることも叱ることもなく、あくまでもやさしく対応していた。
お姉さんは見るからに若く、子どもなどいないかもしれない。それでも、包み込むような寛容さがにじみ出ている。どんなに忙しくても心の余裕が感じられる。笑顔は接客用ではなく、彼女本来のものだとわかる。子育てで私に欠けている部分を見せつけられた思いだ。
天使が舞い降りそうなイルミネーションの街中で、紛れもなく、聖女に出会った。
STRISSEL: 5 place de la Grande Boucherie 67000 Strasbourg