~日々の気になるメディアトピックを気ままにコメント分析~

Sunday, January 20, 2013

アルジェリア人質事件が終って …


ふぅー。
ニュースの話題はアルジェリアで起きた天然ガスプラントの人質拘束事件ほぼ一色、仏語で言えばとても「intensive」な週だった。

事件のいきさつは、フランスのマリにおける戦争の「とばっちり」を受けた形で日本人も巻き添えになってしまったため、日本語でも情報が多いのでここでは省略する。

昨日、アルジェリア軍による「強行突破」が予想通り実行され、残った人質もろとも、テロリストたちは全員鎮圧(殺害)され、占拠事件は幕を閉じたのだが・・・

独断と偏見で今私の思っていることを言いたい。


① オランドは内心 胸をなで下ろしていることだろう

カダフィ政権崩壊後、無法者の行き来が自在となってしまったリビアとの国境付近にあるこのガスプラント。イスラム武装勢力によって、前々から「占拠」が準備されていたと仮定しても、実際に事件が起きたのは仏軍のマリでの参戦がきっかけであろう。少なくとも格好の口実にはなった訳だ。

日本を含めた「西洋」諸国の民間人の人質多数。何の罪もない働く人たち。情報が錯綜する中、当初はフランス人人質の数も不明であったが…。

結局は早い段階で仏人人質一人死亡。もともと仏人は4人くらいと少なかったようだが、土曜の朝、日本人を含めた外国人人質7人がまだ残っているといわれている時点で、ルドリアン国防相は「フランス人の人質はもういな~い」と発表した。

この発表に、オランド大統領、そしてフランス人全般の心境を見た気がする。形としては、自ら起こした戦火の火の粉が散って他国の民間人に「迷惑」が掛かってしまった。しかし、マリで始めたこの戦争は止める訳にはいかない。そのためにはフランスの世論も味方についていないと困難だ。

ガスプラントで囚われ殺された人質が10人単位でフランス人だったら?アルジェリア軍が強行突破せず、交渉が長引き、10~20人のフランス人人質の家族が連日メディアに登場し世間の涙を誘うような証言とともに「息子を、夫を助けて!」と訴え続けていたら。。。

実際、米英日やノルウェーなどが「人命第一に!」と声をあげる中、オランド大統領は表向き「アルジェリア政府を信頼」と発言、静観の姿勢を崩さなかった。作戦強行後も「最も適切なやり方だった」と、のたまう。

オランド大統領が冷血漢であるという意味ではないが、今回の事態の展開は、オランド氏にとって「都合が良かった」ことは間違いない。こちらの言葉で、皮肉たっぷりに il s’en sort bien ! と言いたい。


② フランスの世論

戦争は残酷だ。人の心から「人間性」が薄れる、という意味で。大義名分のためには普通の人々の心が鬼にもなる、それが戦争なんだなぁって。

世論、といっても正式な調査があるわけではなく、主にニュースに対する読者のコメントやツイッター等から判断するに。

今回のアルジェリア軍のテロリストに対する強硬姿勢、人質の命は見捨てた作戦に、フランスの人々は好意的。主権国家としての誇りを持ったアルジェリアの正しい選択、身代金で武器を購入する → また人質を取るという連鎖を断ち切るべき、犠牲やむなし、との意見が花盛りだ。

でも、やっぱり、それは「花屋さんの息子のいとこの婚約者のお兄さんが人質のいる会社の取引先で働いてるんだって」「隣町の町長さんの秘書の旦那さんの同僚の知り合いが捕まってるんだって、心配だねー」と、巷で話題にならないからなのでは、と単純に思ってしまう。身近じゃなければ痛くない。

ちょうど2年前、今回ガス施設を狙ったモクタール・ベルモクタール率いる同じ一味にフランス人協力隊員の若者2人がニジェールで拉致された時、あどけなさの残る顔写真と父母の憔悴した様子がテレビに映し出されて世論はもっと同情的であった記憶がある。

当時のサルコジ大統領が強攻策に出て、結局は仏部隊の空爆により犯行グループと一緒に若者2人も殺害されてしまったわけだが、「やむなし」との意見は一部で根強かったものの、総じてサルコジの勇み足を批判するものだったのに。
(まー、単純な反サルコジ感情もあったのだろうけど)


③ アルジェリア

1962年、19~20世紀130年にわたるフランスの植民地支配から血みどろで脱却。
90年代のすべてをイスラム主義テロリストとの内戦に捧げ、2002年に武装イスラム集団(GIA)が降参するまで6万~15万人の犠牲者を払いながら国の安泰を一人で勝ち取ってきた。

今回、アルジェリアが歴史上、立場上、作戦を強行せざるを得なかったのは、頭では理解できる。さもあらん、と思う。

誰の手も借りない。協力を受け入れたりして「大国の手先」とのレッテルを貼られるのは我慢ならない、ましてや旧植民国の世話にはならない。外国人が巻き込まれていようが、自国で起こった出来事は自分たちの手で、自分たちのやり方で解決する。今まで通り「テロリストとは交渉しない」。

筋は通っているし、潔い。しかし、しかし、、、

深手を負ったトラが癒しきれていない傷をかばいながら立ち上がり、近寄ろうとするものを突っぱねて毅然と歩こうとしているのに似ていて、ある意味、痛々しい。

国際社会はそんなに捨てたものか。国際関係におけるリアリズム健在か。国際協力は駆け引きでしかないのか。特殊部隊のノウハウも最新鋭の技術開発も、結局すべては自国の利益を守るためだけのものなのか。他国よりも優位に立つために。建前や計算無しに、見返りを求めない外交や国際協力なんて、やっぱり夢物語。人間界では到底無理なことなのだろうなぁ。


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