戦争と平和。
パリでのほほんと暮らす分には生活上実感は沸かないが、金曜夜からフランスは平和な国ではなくなった。
軍事介入と言ってしまうと人ごとに感じられるが、実は、目下国を挙げて戦争中。
オランド大統領は11日夜、国連の容認を受けて国が戦闘態勢に入ったと、全国民に正式に発表した。
そこでQ&A。
誰と戦っているの?
近年の戦争は国vs国という従来の形態を取らないことも多い。
仏軍の対戦相手はアフリカに巣くっている複数の武装イスラム過激組織。
《マリ共和国において》
・Mouvement pour l'unicité et le djihad en Afrique de l'Ouest (MUJAO)「西アフリカ統一聖戦運動」
・Al-Qaida au Maghreb islamique (AQMI) 北アフリカ(マグレブ)のアルカイダ系組織(英表記AQIM)
・Ansar Eddine マリのイスラム主義組織「アンサール・アッ=ディーン」。イスラム法(シャリア)に基づいたの国の建設を目指す。2012年夏にマリの北部でユネスコ指定の世界遺産であるモゾレ(霊廟)を次々に破壊したのはこの組織。
↑ この3組織はマリ北部を支配するイスラム原理主義勢力やトゥアレグ族(砂漠遊牧民)の武装集団で、今回結束してマリの南部に総攻撃を仕掛けてきた。
《ソマリアにおいて》
・Al-Shabbaabソマリアのイスラム武装勢力、アル・シャバブ。アルカイダの一派。Shebab(シェバブ)とも呼ばれる。
どこで?
アフリカの西に位置するマリ共和国北部と、アフリカ東部のソマリア連邦共和国。
この2国への同時介入について、政府は「関連性はない」と発表している。エロー首相いわく「条件さえ整っていればソマリアでの作戦はもっと早くに行われていただろう」。
どうして?目的は?
マリのディオンクンダ・トラオレ(Dioncounda TRAORE)暫定大統領がフランスのオランド大統領に頼んだから。
マリ北部のイスラム主義勢力が一気に南下してきたため、マリ国軍だけじゃ抑え切れないから武力を貸して!と直接要請した。(首都バマコはマリ南部に位置する)
オランド大統領は国連の安全保障理事会に「マリ共和国の要請を受け、テロリスト分子と戦うために、仏軍はマリの部隊を支援する」と知らせた。この軍事介入は、主に国連憲章51条の『自衛権』に基づく、と外交筋は伝えている。
まぁ、表向きはどうであれ、要は、アフリカの外交政策的にも重要なマリほどの友好国が国家として機能しなくなり崩壊するのを、フランスとしては指くわえて眺めているわけにはいかないのだ。
マリがイスラム主義武装勢力の手に落ちれば、近隣諸国も揺るぐことになり、マリの隣国ニジェールやモーリタニアにはフランス企業が関わるウラン採掘産業もあることから(フランス原発の資源)、この地域がアフガニスタン化すのを断固阻止しなければならない。
ただでさえマリ政府は国の北半分のコントロールを失っている。おまけに、AQMI やトゥアレグ族武装勢力はフランス人の人質を8人も捕らえたままだし、ナメられたままではフランスの沽券に関わる、ってとこだろう。
ちなみに、なぜ「暫定」大統領かというと、昨年3月、「北部の武装反乱勢力に対して手ぬるい!」と、一部の軍人の手によってトゥーレ前大統領が追放され、新たな大統領選挙が行われるまでの間、国民議会議長であったトラオレ氏が暫定的に大統領に就任しているから。
一方、ソマリアでは、シェバブの人質になっているフランス人男性を解放しようと、前々から計画が練られていた。人質は3年前に捕らえられたフランスのDGSE(対外治安総局)の情報員(スパイ)。
なぜフランスが手伝うの?
フランスは歴史上、主に過去の植民地支配の経緯から、アフリカ西部の国々と深く繋がっている。
今回、マリのトラオレ暫定大統領はオランド大統領に直接呼びかけ、オランド大統領は「友好国であるマリ共和国自体の存続、マリ国民とマリ在住の仏国民の安全が脅かされている」として引き受けた。
また、フランスはチャドやコートジボワールに仏軍基地を有しており、ロジスティクス面でも機敏に対応できるという利点がある。
オランド大統領は、仏軍の武力行使はあくまでマリ国軍に対する支援に留まるべきである、と慎重に明言している。
セルヴァル作戦って何?
Opération Serval 。現在マリで展開中の軍事作戦名。
アフリカの砂漠に生息するネコ科の動物サーバル(Serval)にちなんで。
他の国は参加しないの?
当初、フランスは外部の戦力として参戦した唯一の国であったが、マリ軍幹部によればCEDEAO西アフリカ諸国経済共同体(英表記ECOWAS)の統合軍事力にはセネガルとナイジェリアの兵士も含まれるという。
国連安保理は西アフリカ諸国の兵士3300人で構成される連合軍の編成を承認。この連合軍は西洋諸国の後方支援を受けることになる。
その他、ブルキナファソやニジェールが援軍を配備すると発表。
アメリカは後方支援や無人航空機(drone)の提供などをする準備がある。
イギリスも、兵士は出さないがロジスティクス面で協力すると13日申し出た。
フランスの介入が「植民地主義的」と反感を生まないためにも、アフリカ諸国の軍勢が参加することは、フランスにとって大きな意味がある。
勝てるの?
武力装備の点では先進国の軍隊とトゥアレグ族の武装集団では比較にならないと思うが、後者はマリ北部の都市をほぼ支配下においており、広大な砂漠の中で土地勘と拠点を持つ。また、AQMIは2年前よりフランス人の人質を数人捕獲しており、長期戦となる可能性あり。
仏国防相ルドリアン氏は「必要な限りいつまででも続ける」と発表している。
今までの成果は?
《マリ》
初っ端に仏軍のヘリコプター操縦士一人を失ったものの持ち直し、13日にはオランド大統領は「イスラム主義勢力の侵攻を食い止めた。敵軍に大きな打撃を与えた」と発表。14日朝にはトンブクトゥやガオなどの北部重要拠点を集中攻撃している。
《ソマリア》
11日、情報員Denis Allex(おそらく仮名)の救出作戦は失敗。救出実行の際に仏軍に二人の犠牲者が出たほか「状況から見て、人質は処刑されたであろうと強く推察される」とルドリアン仏国防相が発表。
国内で反対している人は?
少数の反対意見を除いては、左右ともにおおむねフランスの軍事介入を支持している。
反対の声をあげているのは左翼党PGのジャンリュック・メランション氏とヨーロッパエコロジー・緑の党EELVのノエル・マメール氏。二人とも議会に事前相談なしに介入が決まったことを非難。メランション氏はアフリカの問題に外部からの軍事介入することも疑問視。
また、右派からは元首相のドミニク・ドヴィルパン氏が12日、「成功する見通しも立っていないのにフランスが軍事介入すること」に反対する声をあげている。
政治レベルの反対者ではないが、忘れてはならないのが2010年9月よりアフリカのマリ北部も含むサヘル(Sahel)地域でイスラム主義武装集団に抑留されている仏人の人質8人の家族たち。人質は民間人。
8人のうち少なくとも6人は直接AQMIに囚われていると推定され、今回の軍事介入により、人質たちの命は今までになく危険にさらされることになる。ソマリアでの人質救出失敗も起きているだけに、フランスで待つ家族たちの心配は想像に余りある。
私たちの日常生活に変化はあるの?
14日朝「フランスの要所を攻撃してやる!」と、西アフリカ統一聖戦運動(MUJAO)が報復を予告したように、今回の軍事介入によって、フランス本土におけるテロ発生の可能性が存在する。
Plan vigipirate と呼ばれるフランス国内の警戒態勢のレベルが、12日夜より、今までの「赤」から「rouge renforcé 濃い赤」という、今回新しく作ったレベル に引き上げられた。(最高レベルはécarlate 緋色」なので赤と緋色の中間、ということか)。
具体的には今までとあまり変わらないが、軍事施設や宗教施設、人の多く出入りする場所などの監視がさらに強化されるという。
大きな駅などで機関銃持ってパトロールしている兵隊さんの数が増えるのかな。
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